第六場
カーテンを割って。アンサンブル(リズ)登場する。
音楽が流れて来る。それに合わせるように、他のアンサンブル男女も登場する。
リズ 『警官に、呼び止められた』
アンサンブル『俺も…。」
アンサンブル『私も…。』
リズ 『また人が殺されたらしいわ。』
アンサンブル『いつもの事。』
リズ 『死んだのは店に来た監察官。』
アンサンブル『訳ありそうな男』
リズ 『悪人からしぼり取る。嫌な奴』
アンサンブル『悪人以上の悪人』
リズ 『殺されて当然。でもまずい…。』
アンサンブル『あの日店に来てた。』
リズ 『警察が見張ってる。気をつけて…。』
アンサンブル『喋るな。知らん顔でやり過ごせ。』
リズ 「でないと…。」
カーテンの裏から声が聞こえる。
レディ 「でないと…、何。」
カーテンが開くと、下手側にレディとピアノ弾きが。上手側にオーナーとボーイが、立って居る。
リズ 「別に…。」
オーナー 「店は終わったぞ。今夜はもう皆帰れ。」
アンサンブル達、口々に声を掛け合いながら退場して行く。
ボーイ 「レディ、話がある…。」
ピアノ弾きレディを押し出すようにエスコートして、自分はオーナーの居る上手側へ行く。
レディ 「今夜じゃないと駄目。」
ボーイ 「アッ!!…。明日少し早めに、店に来てくれないかな。二人のパートについて細かい打ち合わせ
とかもしたいし。」
レディ 「それだけ?いいわ、わかった。今夜は疲れてるの帰ってもかまわなわね。」
ボーイ 「僕も帰る所だから送るよ。」
レディ それとなく、ピアノ弾きとオーナーを見る。
ピアノ弾き行けとうながす。
レディ 「いいわ。」
レディとボーイ退場する。
ピアノ弾き 「ボーイの奴。かんぺきに、あいつに惚れてるな。」
オーナー 「若いってことさ…。目の前に目新しい女が居たら、そいつが魅力的ならなおさら、自分は恋をしていると
思い込むものだ。」
ピアノ弾き 「若さか…。今じゃ望んでも手に入らない。羨ましいよ…。」
オーナー 「おまえまさか、あの女に本気で…。」
ピアノ弾き 「それはない、それにそんな事が通用する女じゃないしな、レディは。」
オーナー 「そうだな…。それより、あれからどうなんだ、ずいぶんと落ち着いたように見えるが。」
ピアノ弾き 「あの男に出会ったのは、やはりまずかった。一人の夜は眠れない、明りを点けっ放しにして
起きてるか。ほかの酒場に行くか、レディの所に転がり込むか、娼婦の所しけ込むことも多いがね。
何処に行っても今迄とは違う、限界かも知れない。」
オーナー 「大丈夫だ…。今までだってうまくやって来たじゃないか。」
ピアノ弾き 「だが警察だって動き出している。店の誰かが一言漏らせば…。」
オーナー 「警官なんて、少し金をつかませれば、おとなしくなる。ほとぼりが覚めるまでおとなしくして
ればいい。それまで仕事だなんて言わ無いから…。」
ピアノ弾き 「ジェィ…。」
ピアノ弾きは、もうこれ以上は殺しはしなくて良いと言う答えが欲しかった。
オーナーは、まだ殺しを続けさせるつもりであった。
すれ違う二人の考え。ピアノ弾きの絶望に似た寂しさ。哀しさ。
オーナー 「今夜は家に帰れ。考え過ぎなんだ。いいか、大戦は終わってる、もう何年も前に終わっているんだ。
大丈夫眠れるさ…。」
ピアノ弾き 「ジェィ…。」
オーナー ピアノ弾きを残して退場してしまう。
ピアノ弾き 「俺にどうしろと言うんだ。たった一人の友達の頼みだからと、お前の言うままに殺しを続けて来た。
だが今度は違うんだ。あの時の記憶が追い駆けて来るんだ。わかってくれていると信じて居たのに…。」
照明ピアノ弾きの姿だけ残してカットアウト。音楽が流れて来る。
ピアノ弾きの心の幻想シーンを、ストーリーダンス風のナンバーにしたい。
照明変わる。
ピアノ弾きは救いを求めている。
彼に手を差し延べるのは、レディであったり、オーナーであったり。しかし助け起こしてくれても、
彼は突き放せれ、翻弄され立ち尽くす。
その間にアンサンブルが、死人達をイメージして絡む事が出来たらベスト。
暗闇に閉ざされて行くピアノ弾き、それを嘲るように立つレディとオーナー。
舞台中央に光が存在する。そこにボーイが待って居る。
ピアノ弾きは最後の望みとばかりに、近づいて行く。辿り着く刹那、ボーイが紳士と入れ替わる。
ピアノ弾きの恐怖と哀しみ。そして強くなりながら変化する音楽にピアノ弾きが身を任せた時、
彼に安らぎの表情が戻る。静かに眠りに就くピアノ弾き。音楽そのままで暗転。
第七場
音楽かリズムを取る声が聞こえて来る。
ボーイとレディがショーの打ち合わせをしている。(息を合わせる所。リフトかキープ)
レディ 「だから、そんな中途半端じゃ、いつ落とされるかわからないわ、もっとしっかり捕まえてよ。」
ボーイ 「だったら、もう少し踏み込んでくれよ。レディの体が、遠くへ行き過ぎてるんだ。」
レディ 「OK。わかった、お互いを尊重してもう一回。」
二人振りの確認をやり直して行く。今度は何とか形になったようだ。
レディ 「今ので何とかベストかしら。」
ボーイ 「仕方ない、時間もあまり無いし。大丈夫落としゃしないよ。」
レディ 「そう願いたいわね。女はパートナーの男次第なんだから。」
レディ、奥へ行こうとする。
ボーイ 「レディ…。」
レディ 「何…?」
ボーイ 「ひとつ聞いて、いいかな…。」
レディ 「だから、何…?」
ボーイ 「ピアノ弾きとはどういう関係。その…恋人、将来を約束して居るとか…。」
レディ 「(笑い)坊やは坊やね。あの人とは、確かに男と女の関係だわ。でも貴方が言うような仲じゃない。」
ボーイ 「でも…。」
レディ 「そうね、愛し合っていなくても。男に抱かれる事だってあるわ。それにあの人だけじゃないし…。」
ボーイ 「……。」
レディ 「理解出来ないって顔ね。じゃあ聞くわ、貴方女を抱いたこと無いの?」
ボーイ 「いや。昔街の娼婦の所へ連れていかれた、そこで一度だけ…。」
レディ 「そういうものよ。あたしは自分の体を売って生きて来た。」
ボーイ 「エッ…。」
レディ 「きれい事に守られて生きて来た、あんたには、わかる訳無い。あたしは誰よりも、高い所に
居たいの。あんたのようなホワイトのお坊ちゃまなんかに、何時までも見下されるなんてまっぴら。
そのために、利用出来るものは何だって、利用してやる。」
ボーイ 「自分を犠牲にする必要があるって言うの。」
レディ 「犠牲?!(笑い)生きるためよ。貴方は、望むままに総てを、手に入れて来た。
そのお坊っちゃんの気紛れのおかげで、今度の事は、あたしにとってもチャンスだけどね。」
ボーイ 「僕は、そんなつもりじゃない。」
レディ 「だったら何故、あたしなんかをパートナーに指名したの。同情。それとも物珍しさだったのかしら?」
ボーイ 「僕はダンサーとしての貴女を素晴らしいと思ってる。それに…。」
レディ 「それに…。あたしを愛しているから何て言う気?それがなんだって言うの。その言葉にどれ程の意味が
あるって言うの…。」
ボーイ 「それなら他の男のように君を抱けば良いのか…。」
レディの挑発とも取れる言動に、ボーイは自分でも自分自身を持て余し苛立ち、レディを捕まえて
口づけようとする。
レディ 「馬鹿にしないで。(失敗)自分を生かしてくれる男だけよ。坊やには少なからず感謝してるわ。
でも、誰とでも寝る訳じゃない。」
ボーイ 「それならなおさら、彼との関係を説明してくれ。君を高める男とは思えない。
レディ 「そうね…。それは正解だわ。見捨ててしまっても良い筈なのに、出来ないでいる。
どうしてなんだろう。」
オーナーが登場する。
オーナー 「店を開けるぞ。打ち合わせは済んだんだろうな…。」
レディ 「いいわ…。」
ボーイ 「いけます。大丈夫です。」
照明がいったん変わると、音楽が流れて来る。アンサンブル出る。
ボーイを中心にした明るい 若々しいナンバーに。
途中にレディとのデュエットシーンを入れる。
ダンス決まる。舞台客席からの拍手。
レディ・ボーイ速やかにさりげなく離れる。
レディはそのまま退場。ボーイ見送りながら心の何処かに引っ掛かるものを感じていた。
オーナー 「思ってた通りだ。さっきの拍手を聞いたかい。」
ボーイ 「ありがとうございます。」
ボーイ、オーナーの賛辞も上の空。
オーナー 「どうかしたのか?ボーイらしくない。何か気になる事でもあったのか…。」
ボーイ 「オーナー。レディをどう思いますか?」
オーナー 「魅力的だ、だが危険な女でもある。」
ボーイ 「……。」
オーナー 「ボーイ…。彼女に惚れたのか?」
ボーイ 「(頷いて)多分最初から惹かれていたんだと思います。だから…。」
オーナー 「パートナーに彼女を指名した…。」
ボーイ 「すみません。仕事にプライベートを持ち込みました。」
オーナー 「かまわないさ。結果としては大成功だ。しかし彼女は、君の手におえる女じゃないぞ。
それに…。」
ボーイ 「ピアノ弾きとの関係ですか。」
オーナー 「知っていたのか。」
ボーイ 「彼女の口から聞きました。あの人だけじゃないとも…。」
オーナー 「……。」
ボーイ 「自分で自分を持て余して居ます。彼女が欲しいでも…。」
オーナー 「でも、拒否された…。」
ボーイ 「……。」
オーナー 「ピアノ弾きとレディは、男と女の関係だが、恋人とか愛し合って居るかと言ったら、それはないと思う…。」
ボーイ 「……。」
オーナー 「ボーイが彼女に認められたいなら。パートナーとして男として向き合って行くしかない。
それにピアノ弾きは、レディとの将来が有り得ない事もわかっている筈だ…。」
ボーイ 「彼の仕事に関係があるのでしょうか?」
オーナー 「知っていたのか…?」
ボーイ 「はっきりとは…。でも…。」
オーナー 「警察か…。」
ボーイ 「はい。しかし何故…。」
オーナー 「彼なりの正義。そのうち話すこともあるよ。黙っててくれるね。」
ボーイ 「……。」
オーナー 「いい子だ。」
オーナー、ボーイが返答しないので、そのままお客の方へ行ってしまう。
ボーイだけ取り残されたように、その場に残る。
レディ オーナー、ボーイのやり取りの間に第二舞台に。
ボーイ 「いい子か…。オーナーに取ってもレディに取っても、僕はまだ子供なんだろうか…。」
ゆっくりと静かに照明落ちる。
ボーイ 『痛み知らず 幸福に育まれた幼い日々
夢を語り 夢を追う あたりまえと守られて居たのか
人を想う事は こんなにも苦しくて
人の心は 幼い頃のままで居られはしない
愛するという事は 傷つくという事か
そう 夢み 愛し 求め
この身 切り裂く痛みよ
人は傷つきながら生きて行くのか』
歌の最後の方で、レディとピアノ弾きが出る。
レディ ピアノ弾きと続いて歌い継いで行く。
レディ 『愛なんて 不確かな物 あたしはいらない
夢を語り 夢を追う そんな甘い幻想よりも
人を傷つけ 踏みつけにしても
信じるのは 自分の力だけ 夢を現実に
愛するという事は 弱い奴の逃げ場
でも 夢み 愛し 求め
この身 切り裂く痛みよ
人を傷つけながら生きて行くのか』
ピアノ弾き 『愛している この一言ですべて終わる
夢を語り 夢を追う 遠い昔に置いてきた想い
夢を守りたくて 夢を忘れようとしたのに
人を信じ 傷ついても生きてこれたのに
愛するという事は 狂おしく焦がれる事
そう 夢み 愛し 求め
この身 切り裂く痛みよ
人は傷つきながら生きて行くのか』
ボーイ 『そう 夢み 愛し 求め
レディ
ピアノ弾き この身 切り裂く痛みよ
人は傷つきながら生きて行くのか』
最後のフレーズのみ、もう一度重ねたい。(三重奏に出来ないか)
レディを求める二人の男。人を愛したいが愛し方を知らない女。
三人の想いはすれ違って行くばかりである。
曲が終わる頃は、三人共バラバラの方角を見つめて終わりたい。
アンサンブル曲の間に、通り過ぎる人影のように存在する。
照明三人の表情を残す感じでフェイドアウト。
店が終わったのか、薄暗い感じの照明の中に、ピアノ弾きが浮かび上がる。
ピアノを見つめて居るが。意を決したようにピアノに触れようと近づく。
ボーイが静かに登場する。
ボーイ 「ピアノ弾き…。」
ピアノ弾き 「ボーイか、脅かすな。」
ボーイ 「ピアノ?」
ピアノ弾き 「アァ…。(努めて明るく振るまい、ピアノを弾こうとする。だが鍵盤に触れることさえ出来無い)
駄目だな…。」
ボーイ 「弾かないの…?」
ピアノ弾き 「……。」
ボーイ 「弾けないの…?」
ピアノ弾き 「ボーイ…。」
ボーイ 「貴方にとってピアノって何なの…?」
ピアノ弾き 「……。」
ボーイ 「音楽って…!!」
ピアノ弾き 「ボーイ…。」
ボーイ 「貴方は罪を重ねて来た。ピアノは貴方の救いなんだ。音楽は信仰みたいなもの。だから…。」
ピアノ弾き 「ボーイ…!!」
ボーイ 「だから、血で汚れたその手でピアノを弾く事が出来ないんだ。」
ピアノ弾き 「……。」
ボーイ 「僕は貴方が好きだった。父が不当に解雇した友人を思い出させるから。」
ピアノ弾き 「彼もニューヨークに…。」
ボーイ 「二度と会いません。昔の彼じゃない…。」
ピアノ弾き 「彼も罪を犯した。」
ボーイ 「そうです。そして何よりその手で彼女を抱くことが許せない。」
ピアノ弾き 「レディの事か…?!」
ボーイ 「愛しています。」
ピアノ弾き 「言葉で縛れる女じゃない。それに俺達は…。」
ボーイ 「男と女であっても、恋愛感情は無い。彼女はそうかもしれない。でも貴方はどうなんです。
愛していないと言い切れるんですか。僕には少なくとも、そうは見えない。貴方は…。」
ピアノ弾き 「ボーイ…!!」
ボーイ 「彼女に必要なのは貴方じゃない、失礼します。」
ボーイ、自分の感情をピアノ弾きにぶつけて退場する。
ピアノ弾き 「ボーイ。俺はお前が好きだよ。きっとレディだって、お前が好きだ…。その真っ白で、真っ直ぐな心は、
俺達が遠い昔に置いて来た物だ。夢を見て、夢を追えるお前が羨ましい。
出来る事ならこのまま汚れるな。ささやかかも知れないが祈ってるよ。」
ピアノ弾き 「しかし、罪か…。ピアノは救い…。音楽は信仰…。あいつ…。」
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